インターネット広告を取り巻く環境が大きく変わっています。これまで規制がほとんどなかったユーザーの閲覧履歴や購買履歴といったデータ収集に関して、規制を強化する流れが強まっています。背景にあるのはインターネット利用者のプライバシーを保護する機運が高まってきたこと。
蓄積した膨大な量のデータを活用して、個人の興味・関心や嗜好に合わせた広告を掲出してきましたが、利用者が個人情報を巨大IT企業に取得され、管理され続けることや、行き過ぎた追跡型広告に嫌悪感を抱き始めているのです。
そうした流れを受けて、巨大IT企業群が利用者のプライバシー保護を重視する方向に舵を切り始めています。その一つがITPと呼ばれる機能です。
目次
ITPとは
ITPは、Intelligent Tracking Prevention(インテリジェント・トラッキング・プリベンション)の略称で、アップル社が開発したWEBブラウザ「safari」に導入されているサイトトラッキング防止機能です。
WEBサイト訪問者が残す「足跡」のような役割を担う「Cookie(クッキー)」の利用を制限することを目的で導入されました。
ITPについて詳しく見る前に、トラッキングとCookieの説明が必要になってきます。
トラッキングとは
WEB閲覧者のページ訪問履歴や購入した商品、時間帯などの閲覧者の行動をデータ収集し、追跡すること
Cookieとは
トラッキングに用いられる技術の一つ。WEBサイトを訪れたユーザーの情報を一時的にユーザーが使っているブラウザ(safariやGoogle chrome)に保存する仕組みで、WEBサイトに残る「足跡」のような役割を担う
Cookieには
- 「ファーストパーティCookie」
- 「サードパーティCookie」
の2種類が存在します
ファーストパーティCookieは、サイトの運営者が発行しているCookieであるのに対して、
サードパーティーCookieは、第3者が発行しているCookieとなっています。
事例を用いて両者の違いを説明します。
ファーストパーティCookieの事例
AというECサイトで買い物中に、住所や送り先などの情報を途中まで入力しAサイトから一時離脱。その後、同じAサイトに再訪問したところ、前回訪問時にカートに入れた商品情報がそのまま残っていた。
AというECサイトのドメイン上で起きているので、ファーストパーティCookieとなります。
サードパーティCookieの事例
AというECサイトで買い物中に、住所や送り先などの情報を途中まで入力しAサイトから一時離脱。その後、Bサイトを閲覧していたところ、先ほど購入しなかったAサイトの商品広告が表示された。
Aサイトとは異なる別のサイトのドメインなので、サードパーティCookieとなります。
ITPの歴史
アップル社が「safari」にITPを初めて導入したのは、2017年。まずはサードパーティCookieに制限をかけました。
その後、矢継ぎ早にアップデートを繰り返し、制限を強化。サードパーティCookieだけでなく、ファーストパーティCookieも制限をかけるようになりました。
2021年10月現在では、ITP2.3のバージョンが最新となっています。
ITPの初導入とアップデートの変遷
バージョン | 発表日 | 無効化までの時間 | ||
サードパーティCookie | ファーストパーティCookie | ローカルストレージ | ||
ITP 1.0 | 2017年9月 | 24時間 | 制限なし | 制限なし |
ITP 1.1 | 2018年3月 | 24時間 | 制限なし | 制限なし |
ITP 2.0 | 2018年9月 | 即時 | 一部のケースを除き、制限なし | 制限なし |
ITP 2.1 | 2019年9月 | 即時 | 7日間 | 制限なし |
ITP 2.2 | 2019年5月 | 即時 | 24時間 | 制限なし |
ITP 2.3 | 2019年9月 | 即時 | 24時間 | 7日間 |
アップル社がITPを導入した理由
ITPはあくまでもアップル社が自ら開発したブラウザ「safari」にだけ導入した機能です。アップル社がITPを導入した理由は「インターネット広告のターゲティングに高まる嫌悪感・不信感から、ユーザーのプライバシーを守るため」と言われています。
実際にアップル社は、プライバシーポリシーに関して次のように表明しています。
アップル社はユーザーのプライバシーを守ることに重きをおいており、その一例として挙げられるのが、米連邦捜査局(FBI)が、銃乱射事件の容疑者が持っていたアイフォーンのロックを解除するよう求めたケースです。
FBIのロック解除要請に対して、アップル社は個人情報の観点からロック解除を拒否しました。また、暗号化されたデータへのアクセスを可能にする「バックドア(裏口)」という特別な仕組みをアイフォーンに設定することも否定的な考えを示しています。
引用元:Apple対FBIの「ロック解除論争」:日経ビジネス電子版
引用元:サードパーティcookieとは? Apple・Googleの規制による影響を解説 | MOLTS
ITPが与える広告への影響
ITPは、アップル社のブラウザ「safari」にだけ導入された機能であるにも関わらず、日本で影響が大きい理由は、日本国内で「safari」のユーザーが多いからです。
なかでもスマートフォンやタブレット端末ユーザーに限れば、その半数以上が「safari」を使用していることから、スマートフォンやタブレットユーザーのデータ収集に大きな影響を与えています。
ITPによる広告の規則について
- リターゲティング広告が減少
Cookieを利用するリターゲティング広告は、ITPの影響を大きく受けます。ファーストパーティCookieを利用しても、24時間以内にサイトを訪問したユーザーにしかアプローチすることができなくなりました。 - ターゲティング広告の精度が低下
Cookieを通じて取得していたユーザーのおおよその年齢や性別、趣味や関心時の属性情報やウェブ閲覧履歴を収集できなくなります。そのため、広告主が訴求したいユーザー層を狙ったターゲティング広告の精度が下がる懸念があります。
広告計測への影響
コンバージョンが計測されなくなる恐れ
広告効果を測定するために重要な指標が、コンバージョン指標。
掲出された広告をクリックしたユーザーが、その後一定の期間内にあらかじめ設定した行動を取ったときに、コンバージョンとしてカウントされます。しかし、ファーストパーティCookieが保存されている24時間を過ぎてから、ユーザーが設定した行動を取ったとしても、コンバージョンとして計測されないケースが発生します。
そのため、コンバージョン数が以前よりも減少した、成果が悪くなってしまったという状況が起こる可能性があります。
まとめ
ITPについて、その歴史や機能、広告への影響を記載しました。Cookieに対する規制は、アップル社だけの問題ではなく、Google社もサードパーティCookieの利用を制限する措置を取ることを発表しています。
インターネットユーザーの個人情報取得に対する規制は、今後、さらに強化されることはありますが、現在より緩和されることは考えにくい状況です。
これまでのようなインターネット広告施策が通じなくなってくるこれからの時代。そのときの社会情勢に適した広告施策を取っていくことが求められます。