企業におけるWEBサイト担当者の多くは、制作や改修を外部の制作会社に依頼するのではないでしょうか。
しかし、サイト制作は依頼する側の意図を明確に伝えないとクオリティの高いものにはなりません。今回は提案依頼書(RFP)の作成を検討している人向けに、その作成方法や作成時のポイントを解説します。
目次
RFP(提案依頼書)とは
提案依頼書はRFPと呼ばれ、「Request for Proposal」の略称です。
依頼者側がサイト制作・改善におけるシステム構築やデザインをおこなうベンダーに提示するものであり、制作側に伝えなければならない要件や機能、目的などをまとめて記載します。
RFPの目的
RFPを作成する目的の一つは、複数の発注先へ同じ情報を提供することです。特にシステム構築をともなう大規模なサイト制作は、制作会社の発注先候補が複数になることがあります。必要であればコンペを実施して選定する必要もあるでしょう。RFPを作成すればミスマッチな提案を防ぐことが可能になります。これは制作者側に対しても「余計な作業をさせない」という配慮にもなります。
また、発注者側の情報整理という側面もあります。会社のビジョンや求める要件を文章に落とし込み整理することで、抜け漏れの確認や新しい改善策の発見につながることもあるでしょう。
RFPを作成する際の主な構成
RFPを作成する際、構成としては「概要」、「事業」、「提案要件」、「法務事項」、「提出期限・提出方法」の5つに分けることができます。それぞれ、細分化された事項を詳しく見ていきましょう。
概要
まずは本プロジェクトの概要です。制作者側が最初に確認する項目で、基本的な情報を提供します。
表紙・プロジェクト名
自社の会社名、日付、プロジェクト名を記載。また何についての提案依頼書なのかを明記します。順番などは以下を参照にしてください。
新規入居者獲得増強における
ランディングページ制作プロジェクト提案依頼書(RFP)
2024年6月15日
株式会社タガタメ
現状サイトのURL
次に現状のサイトURLを貼り付け、制作者側が対象サイトを間違えることなくスムーズにアクセスできるようにしておきます。
プロジェクトの目的
続いてプロジェクトの目的。先述の表紙に「新規入居者獲得増強」と記載があるので、それを補足する形です。抽象的な表現だと制作者側が混乱してしまうので、具体的な数値などを記載し、意図を明確にするとよいでしょう。
現状課題
上記目的を達成するために障壁となっている現状の課題を提示します。例えば「システム構築に知見のある人材がいないため、リソース確保に課題がある」、「新規入居者の獲得数が停滞しており、斬新なデザインのランディングページを求めている」などです。
システム化の目的
システム開発をともなう場合は、必ずシステム化の目的も明記しましょう。特に、システム開発は目的と課題が明確でないと「何をしてよいかわからない」という状況に陥りやすくなります。
プロジェクトのゴール
目的、課題に続いてゴールも明確にしておきます。ゴールというのはシステム構築やデザインのフィックスではなく、依頼が完了したあと、どのような効果を期待するかという“発注者側のゴール”です。「新たなシステム構築によって運用コストを10%削減する」、「新規サイトオープンから3ヵ月で20件のCVを獲得する」というのがゴールになります。
スケジュール
制作者側が気になるのはスケジュール。こちらも具体的に明記しましょう。「◯月◯日初稿アップ」、「◯月◯日デザインフィックス」、「◯月◯日システム稼働」など、発注者側の希望を提示します。
予算
こちらも制作者側が気になる項目。システム構築はハードウェアの調達費や教育費などがプラスされることもあります。あくまでプロジェクト全体を通した予算としてとらえ、明記すれば後々のトラブルなども回避できます。
対象部署
本プロジェクトに関わる自社の対象部署をリストアップします。必要に応じてメンバーの指名や肩書き、体制なども示しておくと制作者側もスムーズに取り組むことができます。
運用体制
WEBサイトはシステムやデザインができあがったあとの運用が本番です。どのような運用体制にするのかは当然、必須項目。社内で運用するのか、外部に委託するのかによってプロジェクトの制作進行内容も変わってきます。
現状資産
いわゆる自社リソースのリストアップです。ハードウェアやソフトウェアはどのようなものがあるのか。本プロジェクトに関連のある現状資産を棚卸ししましょう。
事業
以上が「プロジェクト概要」の詳細項目です。次にRFPに必要なのは「事業」。これは発注者側の会社について提供する情報をまとめたものになります。
事業内容
自社の事業内容を記載。どのような業種なのか、どのようなマーケットでどのようなトレンドがあるのかなどを明記します。
自社サービス・商品の特徴や強み
上記のマーケットのなかで、どのようなサービスを提供してどこに優位性があるのかを提示。制作者側は、このような強みを紐解いて効果的な戦略提案を考えます。
ターゲット
もちろん、ターゲット選定も重要。既存顧客の属性などを%で算出すると、制作者側もペルソナが策定しやすくなります。新規ターゲットの獲得を目指す場合は、特にターゲットの詳細を明記します。
主要取引先
発注者側の信頼を示すために主張取引先は必要な項目です。クライアントや取引先銀行、ビジネスパートナー一覧などを用意してください。
競合企業
競合企業も制作者側がマーケットを把握する上で大事な情報です。企業だけでなく類似するサービスや商品も列挙すると、より親切なRFPになります。
提案要件
3つ目の構成は「提案要件」。こちらは制作者側に求める提案の詳細情報となるので、RFP作成において最重要項目ともいえます。
依頼範囲
システム構築であれば、開発のみなのか、運用や保守まで依頼するのか。デザインはどのページが依頼の範囲になるのかを明確にします。
想定ページ数
依頼するページ数によって制作者側が出す見積もりは大きく異なります。想定されるページ数を暫定的に算出して、RFPに入れ込んでおきましょう。
必要機能や要件
システム構築では、実装してほしい機能や要件も見積もりに関わってきます。また、パフォーマンスや非機能要件についても補足で記載しておくと精度の高い打ち合わせができます。
ドメイン・サーバー
サイト制作でドメインとサーバーは必ず確認しなければならない事項です。「ドメイン取得は自社」、「サーバー取得から管理までは委託」などの取り決めはあらかじめ提示しておくべきです。
SSLの有無
ECサイトや決済サイトなど、個人情報を扱うサイトは特にセキュリティ面に注力しなければなりません。SSL証明書の暗号化の有無は制作会社にとって気になるところなので、RFPで事前に明確にしておきましょう。
CMSの希望
システム構築完了後、修正や更新などがある場合は自社で実施するケースも考えられます。CMSを導入するか否かも記載してください。また、CMSといってもポピュラーなワードプレスからWix、Shopifyなどさまざまあります。どのようなCMSを求めているかも伝えておくとスムーズです。
提供素材の有無
素材とは写真やテキストなどを指します。例えば、ランディングページのリニューアルであれば、多くの素材は既存サイトから流用できるかもしれません。提供素材の有無と同時に「この写真は後日提供」、「このデータは新規制作依頼」など、できるだけ詳細に明記しておくとよいです。
アクセス解析
運用後のアクセス解析についてです。例えば、Googleアナリティクスと連携したとして、どちらがアクセス解析を実施して運用していくのかも大きな決定事項です。もちろん、外部にアクセス解析を依頼する場合はランニングコストがかかりますので注意してください。
法務事項
RFPでは金銭的な取り引き内容もしっかり提示しましょう。システム構築やデザインなど、クリエイティブの受発注は往々にして定価がありません。つまり、トラブルになるリスクがその他一般的な契約より高いのです。
契約の詳細
まずは契約の詳細。どこからどこまでの範囲でどのような依頼をしてどのような作業に対していくらを支払うのか。契約書のベースになる情報なので、間違いがないか何度もチェックして作成します。
支払いの詳細
入金着金が確認できて初めて支払いは完了します。支払い方法は銀行振込なのか、締め日と支払い日はいつなのか、といったことまでがRFPの法務事項には必要となります。
提出期限・提出方法
5つの構成で最後となるのが「提出期限・提出方法」についてです。発注前の最後のやり取りになるので、こちらも齟齬がないよう注力しなければなりません。
提出期限
こちらは制作物ではなく、提案書の提出期限を指します。しっかり記載しておきましょう。
提出方法
見落としがちなのは提出方法です。「メールの添付にて納品する」、「CD-Rに保存されたものを郵送する」などさまざまあります。
フォーマット
制作者側に提出してもらう提案書のフォーマットを指定します。フォーマットを指定すれば、資料が統一され、発注者側は比較検討しやすくなります。
RFP作成時のポイント
RFPの優劣は「相手に伝わるか」、「提案しやすい情報提供か」で決まります。これらを実現させるためには以下2つのポイントに注意しましょう。
目的や背景を明確にする
まずは目的や背景を明確にすること。1行2行にまとめるのではなく、例えば、「グラフにあるとおり、ここ3年間で〇〇市場は〇〇の影響もあって停滞している。弊社サービスにおいても市場停滞の影響は顕著であり、早急に対応しなければならない。WEBサイトのCV率向上は急務。〇〇や〇〇を満たした情報を提供することでユーザーに対して安心感を与え、弊社の強みも訴求することができる。このようなCV率向上が期待できるWEBサイト制作を求めている」などです。
つまり、新たなシステムを導入することで何がしたいのか、デザインを刷新することで何を期待するのかという本質的な部分を文章化することです。
社内ヒアリングをおこなう
RFPを作成するとなると、担当者1人で対応できるプロジェクトではなくなるでしょう。システムを導入するのであれば、他部署にも影響が出てきます。経営陣はもちろん、あらゆる部署にヒアリングをして現場の意見を吸い上げていくことも大切です。
まとめ
以上のように、RFPの作成は簡単なものではありません。しかし、WEBサイトが集客のメインツールとなっている現代ビジネスでは、外部制作会社の力を借りなければならないのも事実です。
WEBサイト制作に知見がなくとも、精度の高いRFPが作成できればプロジェクトの成功も見えてくることでしょう。